第4章 印旛沼及び流入河川の水質と汚濁負荷

4.1 水質の推移

 「水質汚濁防止法」に基づく千葉県の公共用水域水質測定計画における印旛沼及び流入河川の水質測定点(令和6年度現在)は、第4.1図に示すとおりです。図中のB地点「上水道取水口下」は、印旛沼における環境基準点となっています。また、沼と流入河川における水域類型の指定等については、第4.1表に示すとおりです。


第4.1図 印旛沼及び流入河川における水質測定点

第4.1表 印旛沼及び流入河川の水域類型と環境基準

 印旛沼は、昭和45年9月1日に水質汚濁に係る環境基準の水域類型が「湖沼A」、また昭和59年3月27日には全窒素及び全りんに係る環境基準の水域類型が「湖沼Ⅲ」にそれぞれ指定され、そして、さらに昭和60年12月には、「湖沼水質保全特別措置法」(昭和59年7月制定)に基づく指定湖沼とされました(現在の指定湖沼は全国で11湖沼)。

 「湖沼水質保全特別措置法」に基づき、千葉県は、国が定めた湖沼水質保全基本方針に沿って昭和62年3月に第1期の「印旛沼に係る湖沼水質保全計画」(計画期間:昭和61年度~平成2年度)を策定しました。そして、5年ごとに計画を定め、現在は、令和4年3月に策定した「印旛沼に係る湖沼水質保全計画(第8期)」(計画期間:令和3年度~令和7年度)に基づき各種対策を推進しているところです。

4.1.1 印旛沼

 水質汚濁の代表的な指標であるCOD(化学的酸素要求量)の印旛沼における年平均値の経年変化は、第4.2図のとおりとなっています。


第4.2図 印旛沼におけるCOD経年変化

 環境基準点がある西印旛沼について詳しくみると、昭和48年度には既に9.1mg/ℓと環境基準の値(COD(75%値):3mg/ℓ以下)の概ね3倍を示していました。この後は増減を繰り返しながらも、増加傾向を示し、昭和59年度には13mg/ℓと、その前後に類をみることのない最高濃度を示すに至りました。これ以後減少傾向に転じ、平成3年には7.3mg/ℓ、その後再び増加をたどり、平成7年度、そして平成11年度には、ともに12mg/ℓを示すに至りました。しかし、平成12年度以降再び減少し平成17年度には8.1mg/ℓと、これまでの10年間の中では最も濃度も低く、環境省が発表する全国湖沼水質ワーストのランクでは、第4.2表に示すように、上位ワースト5の中からの脱皮を成し遂げました。しかし、これも束の間、平成18年度は8.6mg/ ℓと濃度を増加させ、全国湖沼水質ワースト4にランクされる結果となり、平成19年度は11mg/ℓと、さらに水質を悪化させ、全国湖沼水質ランクではワースト1となりました。しかし、翌年の平成20年度は8.5mg/ℓに急激に減少し、全国湖沼水質ランクではワースト6に改善されました。平成21年度に8.6mg/ℓ、平成22年度は8.9mg/ℓと横ばいの状況を示したものの、平成23年度には11mg/ℓと急激に増加し、その後水質ランクは29年度まで7年間連続で全国ワースト1となってしまいました。平成30年度に全国ワースト1こそ脱したものの令和3年度までは10~12 mg/ℓの状況が続き、4年度~6年度は昭和59年度以来の最高濃度の13 mg/ℓが続き、関係者の様々な取組にも関わらず、水質の改善傾向はみられていません。

 このように、印旛沼のCODの値は、目まぐるしく変化を示しつつも、近年は高止まりの傾向となっています。この理由は、長きにわたって印旛沼の水中や底泥に蓄積した有り余るほどの窒素及びりんを栄養源として、その年の気候に影響されながらも沼で大量発生する藻類、いわゆる内部生産CODの多寡が大きく関与していると指摘されています。

第4.2表 全国湖沼水質(COD)ワースト5の推移

 実際、印旛沼の最近10年間における窒素及びりんの濃度をみると、第4.3表に示すように、いずれの項目とも、環境基準を大幅に超え、それらの濃度は富栄養湖に分類される濃度(全窒素:0.5~1.3mg/ℓ、全りん:0.01~0.09mg/ℓ)を遙かに上回っており、いわば超富栄養の状態にあるといえます。

 印旛沼のCODのうち溶解性CODを除く固形物由来のCODを藻類に起因する「内部生産COD」としその割合をみてみると、第4.3a図及び第4.3b図のそれぞれに示すように、北印旛沼では平成27年度~令和6年度の直近10年間平均で54.4%、また西印旛沼では同様に直近10年間の平均で56.8%を占めており、年により変動はありますがそれ以前の値と比べると、近年の方が一層内部生産の割合が増加しています。

 一方、違う視点から着目すると、窒素及びりんを限りなく削減し内部生産CODの抑制(藻類の生産抑制)を行ったとしても北印旛沼及び西印旛沼でのCODは、いずれも環境基準を達成するまでには至らないことを示しており、今後も流域全体におけるCOD発生負荷削減対策についてもより一層の強化が必要であることを示唆しています。

第4.3表 最近10年間の印旛沼のCOD、全窒素、全りんの濃度変化

第4.3a図 北印旛沼の内部生産COD
第4.3a図 北印旛沼の内部生産COD

第4.3b図 西印旛沼の内部生産COD
第4.3b図 西印旛沼の内部生産COD

4.1.2 流入河川

 印旛沼に流入する主な7河川の最近10年間(平成27~令和6年度)の水質について、有機汚濁の代表的指標であるBOD(年平均値)の値は、第4.4表に示すとおりです。BODの環境基準(第4.1表参照)は75%値で評価するため単純に比較できませんが、鹿島川、高崎川、手繰川、師戸川及び桑納川の5河川は、それぞれの類型指定に基づく環境基準に相当する値を下回っています。しかし、神崎川は環境基準(2mg/ℓ)の値を超過しており、また、印旛沼放水路上流(新川)についても令和元年度を除き環境基準の値(5mg/ℓ)を超過しています。残念ながら直近10年間を見る限り、改善の傾向にあるとは言いがたい状況です。

第4.4表 主要流入河川最近10年間のBOD及びCOD濃度の推移

 一方、窒素及びりんについては、河川には環境基準が設定されていませんが、第4.5表に示すように、印旛沼の環境基準(全窒素:年平均値0.4 mg/ℓ、全りん:年平均値0.03 mg/ℓ)を大きく上回っており、ここ10年間でみると改善が見られるとは言いがたい状況にあります。

 なお、河川ごとの窒素及びりんの濃度の比較では、窒素は桑納川、高崎川が高く、師戸川や手繰川が低くなっており、りんについてもほぼ同様の傾向がみられます。

第4.5表 主要流入河川最近10年間の全窒素(T-N)及び全りん(T-P)濃度の推移

4.2 水質汚濁の要因

 印旛沼及び流入河川の水質に影響をもたらす要因としては、人口・土地利用・産業構造の変化や生活排水の処理形態の変化があげられます。沼や河川等の水質悪化をもたらす汚濁発生源は、下水処理場・一般家庭などの生活系、工場・事業場・畜産などの産業系、そして山林・畑・水田・市街地等などの面源系の三つに分けられます。

 なかでも、特に土地利用形態の推移に伴い変化する面源系と生活排水の形態別処理人口の変化に起因する生活系は、水質汚濁への影響はきわめて大きいといえます。

4.2.1 流域における発生汚濁負荷量

(1) 発生源別汚濁負荷量の推移

 県が水質保全計画の策定に際して算出した印旛沼流域における発生源別汚濁負荷量(湖沼水質保全特別措置法に基づく指定地域内発生汚濁負荷量)を第4.6表に示します。

 汚濁項目ごとの一日当たりの発生源別汚濁負荷量をみると、まずCODについては、昭和60年度と比較し令和6年度では、生活系は78.8%、産業系は47.8%減少しました。一方、面源系は逆に22.3%の増加を示すとともにCOD総発生負荷量に占める直近の割合は82.2%と極めて大きく、他の発生源を凌いでいます。

 全窒素については、昭和60年度比で、令和6年度では生活系は65.0%、産業系は51.1%減少しています。これに対し、面源系は、2.2%のわずかな減少にとどまり総発生負荷量に占める直近の割合はCODほどではないものの68.5%と大きくなっています。

 一方、全りんについては、昭和60年度比で、令和6年度では生活系が57.2%、産業系が48.7% 減少しているのに対し、面源系は20.9%の増加となっています。しかし、総発生負荷量に占める面源系の割合は42.5%程度にとどまり、COD及び全窒素と比べ生活系及び産業系の割合が大きく、依然としてこれらの影響が大きいことがうかがえます。

第4.6表 印旛沼流域における発生源別汚濁負荷量の推移

(2) 汚濁負荷の発生源とその対策

 個別の汚濁負荷発生源としては、生活系では流域下水道、公共下水道、農業集落排水施設、合併処理浄化槽、単独処理浄化槽、し尿処理場(くみ取り式の便所からし尿をバキュームカーでくみ取り、し尿処理場で処理)、自家処理(農地への肥料として利用)、産業系では特定事業場、事業場一般、畜産(馬、牛、豚)、面源系では山林、水田、畑、公園・緑地、市街地等、湖面(主に降雨にともなう大気中の汚濁物質)がありますが、これらの個々の発生源からの負荷量の多寡は、汚濁項目によって大きな違いがみられます。

 第4.7a表第4.7b表及び第4.7c表に、COD、全窒素(T-N)及び全りん(T-P)の発生負荷源ワースト5の推移を示します。

 CODについては昭和60年以降、現在まで面源系の市街地等がワースト1にランクされています。ワースト2及び3は、平成7年までは単独処理浄化槽とし尿処理場の生活系が占めていましたが、その後生活系の負荷量の減少にともない面源系の比率が高まり、平成17年度以降は水田がワースト2となっています。しかし、単独処理浄化槽は、近年でもワースト3~ワースト4となっており、生活系の中では依然として影響が大きくなっています。

 全窒素は昭和60年度以降、畑が不動のワースト1を占めています。そして平成7年度以降は、ワースト2は市街地等、ワースト3及びワースト4は合併処理浄化槽及び単独処理浄化槽となっていましたが、令和2年度以降は水田がワースト4となりました。

 全りんは、昭和60~平成12年度のワースト1は単独処理浄化槽でしたが、平成17年度以降は市街地等が不動のワースト1となっています。ワースト2以下は、年度によって異なりますが、合併処理浄化槽、単独処理浄化槽に加え、COD及び全窒素のワースト5にあった畑に代わり、特定事業場と畜産(豚)がワースト5に加わっており、COD及び全窒素に比べ、生活系、産業系の比率が大きくなっています。

 以上の結果から、印旛沼及び流域の汚濁発生源としては、市街地等の影響が大きくなっていますが、浄化槽の影響も無視できません。また、それ以外では、CODについては水田、全窒素については畑地、全りんについては特定事業場や畜産などの排水による影響がみられ、今後も、それぞれの発生源対策について一層の強化が望まれます。

第4.7a表 印旛沼流域におけるCOD発生負荷源ワースト5

第4.7b表 印旛沼流域における全窒素(T-N)発生負荷源ワースト5

第4.7c表 印旛沼流域における全りん(T-P)発生負荷源ワースト5

4.2.2 生活排水処理形態別人口

 印旛沼流域における住民の生活排水を処理するため、単独で下水道処理を行っている栄町以外の流域市町では、印旛沼流域下水道事業が行われています。その処理人口普及率(流域総人口に対する印旛沼流域下水道で現に処理している人口の占める割合)は、第4.8表に示すように〔千葉県環境生活部水質保全課資料より作成〕、昭和60年度に30.2%でしたが、令和6年度現在では78.6%と、約2.6倍の増加となっています。また、流域下水道以外でし尿と生活雑排水を同時に処理する形態としては、単独の公共下水道、農業集落排水処理施設及び合併処理浄化槽があり、これらの処理形態別の利用人口割合は、令和6年度現在でそれぞれ2.9%、0.5%、13.3%(通常型と高度処理型の合併処理浄化槽を合わせた値)となっています。これにより、生活雑排水処理人口は、上述の印旛沼流域下水道を含め、流域総人口全体(791,500人)の94.9%にあたる751,252人となっています。一方、し尿の処理は単独処理浄化槽、くみ取り又は自家処理のそれぞれで行い、生活雑排水は未処理のまま放流する人口は、令和6年度現在で流域総人口の4.8%にあたる38,232人となっています。これら雑排水未処理人口のうち、単独処理浄化槽人口は昭和60年度と比べ、令和6年度は90,070人減少し、流域総人口に対する割合では21.5%から3.0%へと大幅に減少しています。これは、平成12年に厚生省(現厚生労働省)が浄化槽の定義からし尿のみを処理する単独処理浄化槽を除外し、浄化槽の設置に際しては雑排水も合わせて処理する合併処理を義務づけることを趣旨として「浄化槽法」を一部改正し、平成13 年4月1日から施行したことに加え、流域の各市町のくみ取りや単独処理浄化槽から合併処理浄化槽への転換、高度処理型合併処理浄化槽の設置、浄化槽の適正な管理のための経費に対する補助金交付などの取組によるものも大きいと考えられます。

第4.8表 印旛沼流域における生活排水処理形態別人口の推移

4.2.3 印旛沼流域下水道の計画と普及

 印旛沼流域における生活排水の抜本的対策である印旛沼流域下水道は、昭和40年代の流域の急速な開発と人口増加を背景に、第4.9表に示すように昭和43年12月に都市計画決定され、千葉県が策定した全体計画に基づき整備が進められています。当該流域下水道は、令和6年3月現在、単独公共下水道で排水処理している栄町を除く流域11市1町に習志野市を加えた12市1町の生活排水と工場排水、その他の接続関係として成田国際空港の排水を千葉市美浜区磯辺にある「花見川終末処理場」(昭和49 年4 月に供用開始)及び美浜区豊砂と習志野市にまたがる「花見川第二終末処理場」(平成6年6月供用開始)で処理しています。

 なお、第4.10表には、下水道計画の諸元と関連市町における下水道処理人口普及率を示してあります。また、第4.11表には、令和6年度の印旛沼流域下水道における流入水及び放流水(処理水)の水質状況を示します。

第4.9表 印旛沼流域下水道の全体計画と進捗状況

第4.10表 印旛沼流域下水道の諸元と関連市町における下水道処理人口普及率

第4.11表 印旛沼流域下水道の流入・放流水の水質(令和5年度)