「水質汚濁防止法」に基づく千葉県の公共用水域水質測定計画における印旛沼及び流入河川の水質測定点(令和2年度現在)は、第4.1図に示すとおりです。図中のB地点「上水道取水口下」は、印旛沼における環境基準点となっています。また、沼と流入河川における水域類型の指定等については、第4.1表に示すとおりです。
印旛沼は、昭和45年9月1日に水質汚濁に係る環境基準の水域類型が「湖沼A」、また昭和59年3月27日には全窒素及び全りんに係る環境基準の水域類型が「湖沼Ⅲ」にそれぞれ指定され、そして、さらに昭和60年12月には、「湖沼水質保全特別措置法」(昭和59年7月制定)に基づく指定湖沼とされました(現在の指定湖沼は全国で11湖沼)。
「湖沼水質保全特別措置法」に基づき、千葉県は、国が定めた湖沼水質保全基本方針に沿って昭和62年3月に第1期の「印旛沼に係る湖沼水質保全計画」(計画期間:昭和61年度~平成2年度)を策定しました。そして、5年ごとに計画を定め、現在は、平成29年3月に策定した「印旛沼に係る湖沼水質保全計画(第7期)」(計画期間:平成28年度~令和2年度)に基づき各種対策を推進しているところです。
第4.1図 印旛沼及び流入河川における水質測定点
水質汚濁の代表的な指標であるCOD(化学的酸素要求量)の印旛沼における年平均値の経年変化は、第4.2図のとおりとなっています。
環境基準点がある西印旛沼について詳しくみると、昭和46年度には既に5.7mg/ℓと環境基準の値(COD:3mg/ℓ以下)*注1)の倍近くを示していました。この後は増減を繰り返しながらも、長期的には増加傾向を示し、昭和59年度には過去最高の13mg/ℓとなりました。これ以後減少傾向に転じたかに見えても再び増加し、近年は、11~12mg/ℓの状況が継続し、環境省が発表する全国湖沼水質ランクでは、第4.2表のとおり平成23年度から29年度まで7年間連続で全国ワースト1となってしまいました。30年度は全国ワースト1こそ脱したものの12mg/ℓで前年より悪化し、令和元年度は11 mg/ℓで順位は前年度に続きワースト2となっており、関係者の様々な取り組みにも関わらず、水質の改善傾向はみられていません。
このように、印旛沼のCODの値は、目まぐるしく変化を示しつつも、近年は高止まりの傾向となっています。この理由は、長きにわたって印旛沼の水中や底泥に蓄積した有り余るほどの窒素及びりんを栄養源として、その年の気候に影響されながらも沼で大量発生する藻類、いわゆる内部生産COD*注2)の多寡が大きく関与していると指摘されています。
注の文章
*注1)
環境基準の適合・不適合の判断について
COD・BODについては測定値の75%値(※)が、全窒素・全りんについては測定値の年平均値が、環境基準の値以内であった場合に環境基準に適合する(環境基準を満たす)と判断することとされている。しかし、本白書で表記する各種水質データは、年平均値と75%値の2種が存在する煩わしさを排し経年変化を重視する観点から、項目を問わず年平均値で表示している。
(※)75%値とは、n個の日間平均値を水質の良い(値の小さい)ものから並べ、n×0.75番目(小数点以下切捨て)に対応する測定値をいう。365日分の測定値がある場合、小さい方から273番目の測定値となる。通常、年平均値よりも75%値の方が大きな値となるため、COD・BODについては、年平均値が環境基準の値を下回っていても、環境基準に適合しないことがあることに留意する必要がある。
*注2)
内部生産CODとは、湖沼等において窒素及びりんの栄養塩類物質を栄養源として増殖した藻類(主として植物プランクトン)を指し、次式によって求められる。なお、溶存態CODは、試水をガラス繊維ろ紙(孔径;1.0μm)でろ過し、固形物を除いた後のCODの値である。
内部生産COD =全COD-溶存態COD
実際、印旛沼の最近10年間における窒素及びりんの濃度をみると、第4.3表に示すように、いずれの項目とも、環境基準を大幅に超え、それらの濃度は富栄養湖に分類される濃度(全窒素:0.5~1.3mg/ℓ、全りん:0.01~0.09mg/ℓ)を遙かに上回る、いわば超富栄養化の状態にあるといえます。
印旛沼のCODに占める藻類の大量発生に起因する内部生産CODの割合をみてみると、第4.3a図及び第4.3b図のそれぞれに示すように、平成22年度~令和元年度の直近10年間平均で北印旛沼は52.8%、西印旛沼は55.9%を占めており、年により変動はありますが平成21年度以前の平均値と比べると、近年の方が一層内部生産の割合が増加していることがうかがえます。
印旛沼に流入する主な7河川の最近10年間(平成22~令和元年度)の水質について、有機汚濁の代表的指標であるBOD(年平均値)の値は、第4.4表に示すとおりです。BODの環境基準(第4.1表参照)は75%値で評価するため単純に比較できませんが、鹿島川、高崎川、手繰川、師戸川及び桑納川の5河川は平成22年度以降令和元年度まで、それぞれの類型指定に基づく環境基準に相当する値を下回っています。しかし、神崎川は環境基準(2mg/ℓ)の値を超過しており、また、印旛沼放水路上流(新川)についても平成22年度及び令和元年度を除き環境基準の値(5mg/ℓ)を超過しています。残念ながら直近10年間を見る限り、改善の傾向にあるとは言いがたい状況です。
一方、窒素及びりんについては、河川には環境基準が設定されていませんが、第4.5表に示すように、印旛沼の環境基準(全窒素:年平均値0.4 mg/ℓ、全りん:年平均値0.03mg/ℓ)を大きく上回っており、ここ10年間でみると改善が見られるとは言いがたい状況にあります。なお、河川ごとの窒素及びりんの濃度の比較では、窒素は桑納川、高崎川が高く、師戸川や手繰川が低くなっており、りんについてもほぼ同様の傾向がみられます。
印旛沼及び流入河川の水質に影響をもたらす要因としては、人口・土地利用・産業構造の変化や生活排水の処理形態の変化があげられます。沼や河川等の水質悪化をもたらす汚濁発生源は、下水処理場・一般家庭などの生活系、工場・事業場・畜産などの産業系、そして山林・畑・水田・市街地等などの面源系の三つに分けられます。
なかでも、特に土地利用形態の推移に伴い変化する面源系と生活排水の形態別処理人口の変化に起因する生活系は、水質汚濁への影響はきわめて大きいといえます。
県が水質保全計画の策定に際して算出した印旛沼流域における発生源別汚濁負荷量(湖沼水質保全特別措置法に基づく指定地域内発生汚濁負荷量)を第4.6表に示します。
汚濁項目ごとの一日当たりの発生源別汚濁負荷量をみると、まずCODについては、昭和60年度と比較し令和元年度では、生活系は75.6%、産業系は44.3%減少しました。一方、面源系は逆に17.6%の増加を示すとともにCOD総発生負荷量に占める直近の割合は79.7%と極めて大きく、他の発生源を凌いでいます。
全窒素については、昭和60年度比で、令和元年度では生活系は60.5%、産業系は60.6%減少しています。これに対し、面源系は、0.2%のわずかな減少にとどまり総発生負荷量に占める直近の割合はCODほどではないものの68.5%と大きくなっています。
一方、全りんについては、昭和60年度比で、令和元年度では生活系が51.7%、産業系が48.9%減少しているのに対し、面源系は16.3%の増加となっています。しかし、総発生負荷量に占める面源系の割合は40%程度にとどまり、COD及び全窒素と比べ生活系及び産業系の割合が大きく、依然としてこれらの影響が大きいことがうかがえます。
個別の汚濁負荷発生源としては、生活系では流域下水道、公共下水道、農業集落排水施設、合併処理浄化槽、単独処理浄化槽、し尿処理場(くみ取り式の便所からし尿をバキュームカーでくみ取り、し尿処理場で処理)、自家処理(農地への肥料として利用)、産業系では特定事業場、事業場一般、畜産(馬、牛、豚)、面源系では山林、水田、畑、公園・緑地、市街地等、湖面(主に降雨にともなう大気中の汚濁物質)がありますが、これらの個々の発生源からの負荷量の多寡は、汚濁項目によって大きな違いがみられます。
第4.7a表、第4.7b表及び第4.7c表に、COD、全窒素(T-N)及び全りん(T-P)の発生負荷源ワースト5の推移を示します。
CODについては昭和60年以降、現在まで面源系の市街地等がワースト1にランクされています。ワースト2及び3は、平成7年までは単独処理浄化槽とし尿処理場の生活系が占めていましたが、その後生活系の負荷量の減少にともない面源系の比率が高まり、平成17年度以降は水田がワースト2となっています。しかし、単独処理浄化槽は、近年でもワースト3~ワースト4となっており、生活系の中では依然として影響が大きくなっています。
全りんは、昭和60~平成12年度のワースト1は単独処理浄化槽でしたが、平成17年度以降は市街地等が不動のワースト1となっています。ワースト2以下は、年度によって異なりますが、合併処理浄化槽、単独処理浄化槽に加え、COD及び全窒素のワースト5にあった畑に代わり、畜産(豚)がワースト5に加わっており、COD及び全窒素に比べ、生活系、産業系の比率が大きくなっています。
以上の結果から、印旛沼及び流域の汚濁発生源としては、市街地等の影響が大きくなっていますが、浄化槽の影響も無視できません。また、それ以外では、CODについては水田、全窒素については畑地、全りんについては畜産などの排水による影響がみられ、今後も、それぞれの発生源対策について一層の強化が望まれます。
印旛沼流域における住民の生活排水を処理するため、印旛沼流域下水道事業が行われています。その処理人口普及率(流域総人口に対する印旛沼流域下水道で現に処理している人口の占める割合)は、第4.8表に示すように、昭和60年度に30.2%でしたが、令和元年度現在では77.1%と、約2.6倍の増加となっています。また、流域下水道以外で、し尿と生活雑排水を同時に処理する形態としては、単独の公共下水道、農業集落排水処理施設及び合併処理浄化槽があり、これらの処理形態別の利用人口割合は、令和元年度現在でそれぞれ2.8%、0.5%、13.6%となっています。これらを合計した生活雑排水処理人口は、上述の印旛沼流域下水道を含め、流域総人口全体(792,506人)の94.1%にあたる745,578人となっています。
一方、し尿処理は単独処理浄化槽、くみ取り(し尿をバキュームカーで収集し、し尿処理場で処理する形態)又は自家処理(肥料等)で行い、生活雑排水は未処理のまま放流する人口は、令和元年度現在で流域総人口の5.9%にあたる46,928人となっています。これら雑排水未処理人口のうち、単独処理浄化槽人口は昭60年度と比べ、令和元年度は83,625人減少し、流域総人口に対する割合では21.5%から3.8%へと大幅に減少しています。これは、浄化槽の定義からし尿のみを処理する単独処理浄化槽を除外し、浄化槽の設置に際しては雑排水も含めた合併処理を義務づけることを趣旨として「浄化槽法」が改正され平成13年4月1日から施行されたことに加え、流域の各市町によるくみ取りや単独処理浄化槽から合併処理浄化槽への転換、高度処理型合併処理浄化槽の設置、浄化槽の適正な管理のための経費に対する補助金交付などの取組も大きいと考えられます。
印旛沼流域における生活排水の抜本的対策である印旛沼流域下水道*注1)は、昭和40年代の流域の急速な開発と人口増加を背景に、第4.9表に示すように昭和43年12月に都市計画決定され、千葉県が策定した全体計画に基づき整備が進められています。当該流域下水道は、令和2年3月現在、単独公共下水道*注2)で排水処理している栄町を除く流域11市1町に習志野市を加えた12市1町の生活排水と工場排水、その他の接続関係として成田国際空港の排水を千葉市美浜区磯辺にある「花見川終末処理場」(昭和49年4 月に供用開始)及び美浜区豊砂と習志野市にまたがる「花見川第二終末処理場」(平成6年6月供用開始)で処理しています。
なお、第4.10表には、下水道計画の諸元と関連市町における下水道処理人口普及率を示してあります。また、第4.11表には、令和元年度の印旛沼流域下水道における流入水及び放流水(処理水)の水質状況を示します。
注の文章
*注1) 流域下水道とは、2つ以上の市町村からの下水を受け処理するための下水道で、終末処理場と幹線管きょから構成され、事業主体は都道府県。千葉県では印旛沼、手賀沼、江戸川左岸の3流域下水道がある。
*注2) 公共下水道とは、事業主体は原則として市町村で、市街地における雨水や汚水を主に地下に埋設した管渠で排除するもので、汚水を市町村が設置した終末処理場で処理する単独公共下水道と流域下水道に接続し処理する流域関連公共下水道がある。なお、千葉県全体(54市町村)における下水道処理人口普及率は、令和2年3月末で75.5%である。