第3章 印旛沼流域の概況

 印旛沼流域は下総台地と呼ばれる火山灰に覆われた台地と、谷津と呼ばれる台地を樹枝状に走る浸食谷から成り立っています。下総台地は南東方向に高く、北西方向に向かって緩やかに傾斜し、標高の最高部は千葉市緑区土気付近で約95m、中央部は30~50m、最低部は白井市付近で20m、そして印旛沼付近は約30mと、台地全体の形状は概ね平坦な状況です。

 一方、地層・地質的には、約数十万年前に堆積した下総層群と呼ばれる砂層と粘土層の互層、そして上部層数メ-トルは一般的には関東ローム層と呼ばれる風積性の火山灰層から構成されています。このため台地は一部を除き、浸食を受け易く透水性と通気性に富んでいます。このことから雨水はきわめて浸透し易く、地下水を多分に涵養し易い状況にあります。

 このような土質的状況を背景にして、台地は畑地や山林として利用され、谷津は地下水位が高いこともあって水田として利用されています。また、台地と谷津との境はシイ、ヤブコウジ、スギなどの多種多様な高木で覆われた斜面林となっており、印旛地区特有の景観を呈しています。

3.1 気象

 印旛沼流域の気候は、東日本特有の温暖多雨型に属していますが、千葉県の中では、概して内陸的で低温寡雨です。

 気象庁の佐倉アメダス局の観測資料に基づく印旛沼周辺の平成30年及び令和元年における気象状況は、第3.1表に示すように、気温は、平成30年が年平均で15.7℃、令和元年は15.4℃と、平年値(14.4℃:昭和56年から平成22年までの30年間、以下、日照時間を除き平年値の統計期間は同様)に比べ、それぞれ1.3℃、1.0℃といずれの年も高く、特に、平成30年の平均気温15.7℃は、佐倉における気象庁の観測結果が確認できる1979年~2019年の41年間で、最高を記録しました。日照時間は、年間積算で平成30年は2034.4時間、令和元年は1,872.3時間と、平年値(1,831.6時間:昭和62年~平成22年までの24年間)に比べ、それぞれ202.8時間、40.7時間長くなっています。降雨量は、平成30年(1,284.5mm)は平年値(1,409.6mm)と比べ125.1mm少なく、また令和元年(1,793.0mm)は台風に伴う大雨などもあり383.4mm多くなっています。

第3.1表 佐倉市の気象(平成30年・令和元年)

 さらに、佐倉市における気象の長期変動をみると、年間の降水量と日照時間については、年により変動が大きくその傾向を判断するのは困難ですが、年平均気温の直近30年間の変動は第3.1図のとおりで、さらに近似直線を描いてみると30年間で1℃近くの上昇が認められ、明らかに温暖化の傾向が見受けられます。

第3.1図 佐倉市における気温の長期変動

3.2 土地利用

 印旛沼流域は、第3.2図に示すように、13市町〔千葉市、船橋市、八千代市、鎌ケ谷市、成田市、佐倉市、四街道市、八街市、印西市(旧印旛村と旧本埜村を含む)、白井市、富里市、酒々井町、栄町〕にまたがっています。流域面積(湖沼水質保全特別措置法に基づく指定地域面積で、長門川流域は含まれません。以下同じ。)は印旛沼の湖面積(11.55㎢)を除き493.99㎢となっています〔令和2年4月1日現在:千葉県環境生活部水質保全課資料〕。


第3.2図 印旛沼及び流域の概略図

 流域における土地利用については、第3.2表に示すように、令和元年度現在で市街地等(公園・緑地を含め)が227.5㎢、畑が107.1㎢となっており、この二つで流域面積全体の約68%を占めています。一方、昭和60年度をベースとして土地利用形態の増減をみると、令和元年度までに山林が38.8㎢、水田8.1㎢、畑が18.9㎢減少し、これに代わり市街地等が69.9㎢増加しており、今後も市街化等への土地利用の転換・拡大が進展するものと思われます。

第3.2図 印旛沼流域における土地利用別面積の推移

3.3 主要流入河川

 流域を貫流し印旛沼に注ぐ主要な河川としては、第3.3表に示すように、利根川水系一級河川の鹿島川とその支川にあたる高崎川、沼に直接流入する手繰川と師戸川、そして新川とそこに流れ込む神崎川と桑納川の7河川ですが、これらの河川はいずれも第4章の第4.1図に示すように、西印旛沼に注いでいます。一方、これに対し北印旛沼には、利根川と印旛沼を結ぶ長門川(指定延長8.1㎞)がありますが、これは、既に第2章の「2.3沼の水管理」で記載したように、印旛沼の管理水位を維持するため、印旛沼の水を利根川に自然放流し、渇水期等には利根川の水を沼に注入するための水路という、いわば印旛沼の用排水路的機能としての性格を持つ河川です。この他に、北印旛沼には市町が管理するいわゆる準用河川である松虫川や江川等が注いでいます。

 一方、これらの河川の諸元をみると、千葉市若葉区・緑区、四街道市、佐倉市及び八街市にまたがり貫流する鹿島川は、流量及び流域面積とも最も大きくなっています。次いで高崎川、神崎川等と続き、印西市を貫流する師戸川の流域面積が最も小さくなっています。しかし、流域ごとの人口密度(流域面積1㎢あたりの人口)をみると、令和2年度現在で船橋市と八千代市を貫流する桑納川流域が5,458.4人と最も高く、次いで手繰川(3,579.0人)、新川(2,706.3人)、神崎川(2,610.8人)、師戸川(1,300.2人)、高崎川(1,026.2人)と続き鹿島川(957.2人)が最も低くなっています。

第3.3表 印旛沼の主な流入河川と諸元

3.4 流域人口

 流域全体における総人口(湖沼水質保全特別措置法に基づく指定地域内の人口。以下同じ。)は、第3.4表に示すように、昭和60年度に529.2千人にすぎなかったものが、平成2年度には603.3千人、平成7年度679.2千人、平成12年度717.7千人と急速に増加しました。この後は増加が緩慢となったものの、平成17年度は737.5千人、そして平成22年度では766.5千人、平成27年度は783.5千人、令和2年度は792.5千人となっており、引き続き着実に増加しています。

  一方、流入河川別の流域人口は、昭和60年度をベースにして令和2年度をみると、師戸川流域が5.94倍の増加で最も高く、次いで神崎川流域が1.66倍、高崎川流域が1.51倍、そして新川流域が1.40倍と続いています。一方、増加が最も低いのは船橋市と八千代市をまたがって流れる桑納川流域の1.20倍となっています。

第3.4表 印旛沼及び流入河川別の流域人口の推移